「虎に翼」の戦争孤児問題に産婦人科医が思うこと
みなさんこんにちは、産婦人科専門医の稲葉可奈子です。
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実はこのニュースレターをはじめるきっかけの1つが今放送中のNHKの朝ドラ「虎に翼」で、産婦人科医として気になる、解説したくなるエピソードが満載で、産婦人科医として感じること、伝えたいことを書きたいなぁと思っていたのです。ちょこちょこと産婦人科的とらつば談義シリーズもお届けしていきたいと思いますので、お付き合い頂けましたらうれしいです。
なお、もちろん、あくまで一産婦人科医の思うことですので、産婦人科医全員がこんなことをつらつらと考えながらとらつばを見ているわけではないと思います。おそらく。
ほんまはもう第一話から書きたいこといろいろあるのですが、時差がすぎるので、最近のストーリーから取り上げていって、たまに過去回も取り上げたりしていこうと思います。なので順不同です。
どうしてもリアルタイムでは見れず、週末にまとめて見ていることが多く、おそらくわたしより遅く見る方はそんなに多くないと思うので、ネタバレにはならないと思いますが、
遅れて見る方で、ぜったいにネタバレを防ぎたい方は重々ご注意下さい…!(第〇週の話よ、というのは明記しておきます。)
第12週の道男をみて思うこと
最高裁判所家庭局事務官、東京家庭裁判所判事補になった寅子が戦争孤児の問題に向き合う中で、スリを行っていた少年・道男を猪爪家に居候させるのですが、
情が厚い、の一言では済ませられない、まぁ安全上の問題などなど、現実的には「美談」では片づけられないわけです。
当時、戦争孤児が多くてその受け入れ先が全く足りていない状況でした。
だからといって、関係者が個人的に面倒を見る、ということはリスクも伴いますし、全員を受け入れられるわけでもありません。ただ、当時と今との違いは、情報伝達の速度が格段に違う、ということで、同じことをするでも今の方が圧倒的にリスクは大きいと思われます。
つまり、今もし同じようなことをしようものなら、住所など個人情報や家の様子をSNSにアップされたら瞬時に世界中に広がりますし、同時に、世界中から(中には賛辞もあるかもですが)誹謗中傷などがとんでくるわけです。
そんな具体的なリスクをわざわざ確認しなくても、身の危険があるかもしれないことは普通はしないでしょ、と思いますよね。これは、寅子はやさしかったけど、現代人は冷たい、とかではなく、昔と今とでは、リスクの大きさが違うのです。昔は人情だけでできたようなことが、今では通用しない、ということはこれに限らずあることです。
ごく自然体で考えると、いくら困っているからといっても、今のこの時代に、見ず知らずのしかももしかしたら危害を加えたり盗難などするかもしれない可能性がある人を、自分の家に招き入れたりはしないのです。もし招き入れるとしたら、招き入れる側に、「助ける」以外の目的がある可能性がとても高い。
もちろん、中には、そんな下心はなく、純粋に助けてくれる方も中にはいると思います。
ですが、それは見た目では分かりません。そしてもし違った時のリスクとダメージが大きすぎるのです。
これは要は「知らない人についていっちゃダメですよ」ということなわけですが、
小さいうちはシンプルに「知らない人についていかない」でよいけれど、
もう少し社会とのつながりがでてくると、たとえばゲームでオンラインで対戦したり、SNSで知らない人とやりとりしたり、ということがでてくると、「知らない人」の境界がすごく曖昧になっていきます。「知らない人」と知り合いになっていく、という、世界が広がっていくすごくポジティブな一面もあるので、線引きがとても難しくなっていく。
そしてそれが今の時代ははやいと小学生から。
子ども側は、純粋に、人とのつながりが増える、と思っていても、相手(が年上の場合は特に)はそうではない可能性がある。と小学生に説明しても、性善説しか通用しないことがあるので、
さきほどの、
小学生とはいえ知らない子を招き入れたらなにか盗まれるかもしれないし、個人情報をアップされるかもしれないわけで(君がそういうことをしそう、という意味ではなく、そういうことをする子も中にはいて、だれがそれをするかしないかは見た目じゃわからない)、にもかかわらず個人的なかかわりをもつとしたら、なにか(多くはよからぬ)目的がある可能性が高いよね
というような、子どももちょっと「たしかにそうかもしれない」と腑に落ちる論理展開でお話しするのがおすすめです。
ただ、いきなりかしこまってこんな話をするのって難しいし、子どもも聞いてくれないので、
たとえば今回のように、ドラマとかでそういうストーリーがでてきた時に、
ドラマでは、もしくは昔は、ありえたかもしれないけど、今は/現実には通用しないよね、というような話をしたりとか、
ニュースで関連するような報道があった時に、こういうことがありうるから気をつけてね、だけやと自分事としてはとらえられず当事者意識をもてないので、下心のない人が声かけたり家に呼んだりなかなかしないよね、という話をしたり、というのが自然な話の切り出し方かなと。
あと、子どもがたとえば思春期になって実際にそういうリスクがあるかもとなってから話をしてもおそらく聞いてもらえないので、うちの子に限って大丈夫、とか関係なく、どんな子でも、普段から、話を聞いてくれるうちに、たまにそういう話をしておくことが、万が一の事態を防ぐことにつながるかと。
と、話がだいぶとらつばから離れてしまいましたが、要は、今の時代に寅子のようなことはなかなかできないよね、逆に言えば、、ということを産婦人科医は思ったりするわけです。
Dr.HOUSEって知ってます?
公私混同の人助けといえば、アメリカの医療ドラマのDr.HOUSEてみなさんご存じでしょうか?
ハウスという医者が、患者さんを救うために、勝手に家に行ったりとか、これもなかなか現実世界では難しい設定ではあるのですが、これは時代設定が昔というわけではなく、あくまでドラマの世界のお話。
いくら治療のためと行っても患者さんの同意を得ずに家に押しかけたりはできないですし、逆にいえば、そこまでする責任があるわけでもありません。
ただ、病院での診療だけで患者さん全員を救えるわけではないこともまた事実。
Dr.ハウスのように、診断のために、とは違いますが、
産婦人科でも、病院での診療だけでは不十分なことがあります。それがわりと多い科やと思います。
たとえば、妊娠したかもと受診した方が、望まない妊娠だった場合に、いわゆる「医療」だけではその方が本当に必要な支援としては不十分で、
ただ、それを医者や病院が全部請け負うわけではなく、必要な社会福祉につなぐことがとても大事。ところが、その自治体の支援が時と場合によってまちまちなのも現状。
傾聴(お話を聞く)だけでおわってしまって、具体的な支援に結びつかなかったり。
そこは本当に改善が必要な部分で、収益はあがらないけど支援が必要な人のための仕組み にこそ税金を使うべきで。
とはいえ、受診してくれた方は、こちらからつなぐことができますが、受診にたどり着かない方も多くて。(望んでないのに)妊娠したかも…と思った時に、ここに相談する、というワンストップの窓口が、ないことはないのですが、自治体ごとに分かれていてなかなかその情報にたどり着けない。
しかも名前が「性と健康の相談センター」なので、「妊娠したかも」とか検索してもすぐにはたどり着けない。。
そして都道府県ごとに相談窓口があるのですが、意外と盲点なのが、特に地方ほど、地元で相談できない問題があります。
東京はもうだれがどこにいるか分からないほど人も多いしビルもいっぱいやし病院もいっぱいあるので、相談しただけで噂になる、みたいな人の目が気になることはまずありませんが、
ちょっと地方へ行くと、相談しに行っただけで噂になってしまうから地元で相談に行けない、ということは本当にあるのです。同様に、産婦人科に受診しただけで噂される問題も。
もちろん自治体の管轄など行政の事情があるのも重々承知の上で、
とはいえ、本当に支援が必要な人に支援が届くためにも、全国共通の、そしてだれもが知ってるわかりやすいワンストップ相談窓口 を作ってほしいなぁと産婦人科医としては切に願います。
つい先日、小学生がパパ活をしていたというニュースで「テレビとかでトー横の話を聞いて居場所のない人を受け入れてくれる場所だと思った」と言っていたと聞いて、もう大人として申し訳ない気持ちでいっぱいです。。
支援窓口があったとしても、必要としている人に届いていなければなんの意味もない。
たとえばユースクリニックも、日本ではまだこれからですが、本当に必要な人に知ってもらわないとその存在意義は発揮されないのです。
そして、戦争孤児の受け入れ先が不足していた状況をとらつばで見て、今は、受け入れ先の不足ではなく相談窓口などは作られているけれど、必要としている子に届いていない、という意味では、助けきれてない点で今も同じやなぁと思い、
困っている人の相談窓口こそとにかく分かりやすい形で知られるように、
そして話を聞くだけ、ではなく、ちゃんと具体的な支援に導ける体制であってほしいなぁと、
いろんなケースを目の当たりにしている産婦人科医は思うのであります。
そうすると、日本がもっとよい社会になります^^
社会全体が変わっていくにはもうちょっと時間がかかりますけど、
自分の子に話をするのは今日からでもできるので、
ちょっとした参考になれば幸いです!
最後までお読みいただきありがとうございました。
もっと産婦人科医的にど真ん中のテーマがとらつば過去回にはたくさんあるので、また追々お話していきたいと思います。
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ではまた次のニュースレターで元気にお会いしましょう!
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