日本はジェンダーギャップ指数が改善したのになぜまだ先進国でぶっちぎり最下位なのか
みなさんこんにちは、産婦人科専門医の稲葉可奈子です。
「稲葉可奈子の元気がでるニュースレター」をご登録くださりありがとうございます。
なぜこんなアントニオ猪木さんみたいな雰囲気のタイトルをつけたかというと、産婦人科に関する話題や女性に関する話題は、大事な社会課題であることが多いのですが、どうしても、不満や憤慨など「ネガティブ」の感情になりがちで。
もちろん、理不尽なことも多いので、ネガティブなコメントがでるのは当然なのですが、
不平不満だけでは事態は改善しなくて、よりよい方向へ変えていくには、どうすれば改善できるかという建設的な議論が必要で、「ネガティブ」な感情を燃料にして「ポジティブ」な未来を創っていく、というのが理想なのですよね。
ただ、SNSでは、どうしてもネガティブな感情のほうが拡散されます。
不平不満や怒り憤慨の方が共感されやすく、関心をよびやすく、拡散されやすいため、PVが大事なメディアも、ネガティブな内容の方を取り上げがちです。人間界の話題については。「かわいい」とストレートにポジティブに積極的に取り上げられるゆるふわ動物たちがうらやましくて仕方ありません。
「日本はこんなにひどい」「ここがあかん」という話ばかりでは気が滅入ります。でも、本当は、どうすればよくしていけるかを考えたいし、知ってもらいたいし、どんな話題も、もっとポジティブに考えると、元気がでるはず。
ということで、ネガティブにとらえられがちな巷で話題の社会課題について、とにかくポジティブに考えて元気になろう、というのがこのニュースレターのテーマです。
ジェンダーギャップ指数てなんや?
ニュースレターの記念すべき1回目の配信のテーマをなににするか考えていた時に、ちょうど今年のジェンダーギャップ指数が発表され、日本が昨年より少し改善したものの相変わらず低迷、という結果であったため、もうこのニュースレターの根幹のような話題なので、この話から始めてみようと思います。(不定期に登場予定のとらつば解説にもつながる話題でもあるので。)
そもそも「ジェンダーギャップ指数」てなんなんでしょう?
「ジェンダーギャップ指数」というのは、世界経済フォーラム(WEF)が男女格差の現状を各国の統計をもとに評価して、「Global Gender Gap Report」(グローバル・ジェンダーギャップ・レポート、世界男女格差報告書)として毎年だしているもの。
今年は6月12日に、「Global Gender Gap Report」2024年版が発表され、日本は146ヶ国中118位で、昨年の125位より少し改善。なお、2023年の日本のジェンダーギャップ指数は146ヶ国中125位で、2006年の評価開始以来最低の順位。昨年よりは改善したとはいえ、146ヶ国中118位では全然手放しに喜べないのは言わずもがなで、こんな話題でどう元気になれるのかはなはだ疑問ですよね。。
まぁ気をとり直して、この「ジェンダーギャップ指数」がどういう指標に基づいて算出されているのか、気になりませんか?
この「ジェンダーギャップ指数」はなにをもとに算出しているかというと、
「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野について男女格差を評価して、「0」が完全不平等、「1」が完全平等、数値が小さいほどジェンダーギャップが大きい、ということ。
そのうちわけがとても興味深くて、
「健康」と「教育」は決して格差が大きいわけではない、というかむしろほぼ平等。
【健康】0.973(58位)
出生時の性比 0.944(1位)
健康寿命の男女比 1.039(68位)
むしろ、日本は、男性よりも女性の方が健康寿命が長いので「逆?ジェンダーギャップ」が生じている状態。
ジェンダーギャップ指数は、あくまで、男女平等からどれだけ離れている?という指数なので、女性の方がよい、という場合もギャップがあることになります。
なお、いわゆる「日々の健康」は評価の対象となっていないので、
日々の健康やパフォーマンスなども評価項目に入ると、生理や更年期による症状がまだまだ女性に大きく影響している日本は、「健康」についてのジェンダーギャップ指数ももっと下がってしまいそうです。
【教育】0.993(72位)
識字率の男女比 1.000(1位)
中等教育就学率の男女比 1.000(1位)
高等教育就学率の男女比 0.969(107位)
教育については、指標に入っているのが高等教育まで、なので、ほぼ平等かと思いきや、若干女性の方が高等教育就学率が低く、とはいえ若干では…と思いきや、それでも107位。
逆に言えば、世界はもっと男女ともに高等教育まで就学しているということですね。
問題は経済と政治
そして日本のジェンダーギャップ順位を下げているのが「経済」と「政治」というまさに女性の活躍やキャリアに関する部分。
【経済】0.568(120位)
労働参加率の男女比 0.768(80位)
同一労働における男女の賃金格差 0.619(83位)
推定勤労所得の男女比 0.583(98位)
管理的職業従事者の男女比 0.171(130位)
評価項目すべてに課題があるものの、とりわけ女性管理職比率の低さは、世界的にみても最下位に近く、女性管理職3割を目標にかかげているものの、まだまだ目標は遠いですね。
そして、昨年最下位レベルの138位だった政治は、2023年9月の内閣改造で女性閣僚が過去最多に並ぶ5人となったために「閣僚の男女比」が改善して、順位があがりました。
【政治】0.118(113位)
国会議員(衆院議員)の男女比 0.115(129位)
閣僚の男女比 0.333(65位)
過去50年間の行政府の長の在任期間の男女比 0.000(80位)
とはいえ、女性議員の割合は未だ低いままで、
女性議員も、女性閣僚も、女性管理職の割合も日本は非常に低い、ということ自体が、女性がはたらきにくい組織・社会から脱却できない原因でもあるかと。
なぜならば、全体の30%をこえないとマイノリティ(少数派)で意思決定に影響力をもてない、
逆に言えば、マイノリティ(少数派)の層が、全体の30%を超えると意思決定に影響力を持つ、
と、経営学者であるロザベス・モス・カンターは「黄金の3割」という理論を提唱しています。
意思決定の場のほとんどが男性だと、どうしても女性が働きづらい環境になってしまうのも無理はないですよね。管理職のほとんどが男性なのに、女性が働きやすい環境になっているとしたら、それはそれはすばらしいことです。
日本のジェンダーギャップどうする?どうなる?
あくまでこの限られた項目での評価なので、社会におけるジェンダーギャップがそのまま反映されているわけではありません。ですが「こんな順位気にする必要ないよ、日本はジェンダーフリーだもの」というわけでは全くないわけで、全く気にしなくてよいわけではありません。
というかむしろ「あ、やっぱり日本て世界的にもジェンダーギャップ大きいですよね」と違和感がないのではないかと。
このレポートで順位が高い、ジェンダーギャップが少ない国も、各国それぞれの課題があるわけですけども、
実は、日本のジェンダーギャップ指数(スコア)は、第1回の2006年は0.645で、115カ国中80位。実はその後もスコアはほぼ横ばいで、スコア自体が下がっているわけではないのですが、順位が下落傾向。日本が変わらない間に、他国は格差解消の取り組みを進めてきたということ。
他の国が格差解消に動けたということは、日本も変われるはず。
とはいえ、ジェンダーギャップ指数の順位を上げることだけが目的となったり、「女性管理職30%」という数字の達成だけが目標となって、
「能力が伴ってないのに女性というだけで起用されてる」などと言われる事態に陥っては余計に男女の分断が深まってしまいますし、
数値目標達成のために、「管理職」にあたるポストを増やして、実質的な管理職業務を担っているわけではないのに、対外的な数合わせだけ行う、というのも本末転倒。
女性だって、別に女性だから甘やかしてほしいとか優遇してほしいなんて思ってなくて、ちゃんと正当に活躍することができて、成果を正当に評価されたい、ただそれだけなのです(もちろん全員がそうではないかもしれないですが)。
じゃぁ頑張ればええやん?と思いますよね。なぜそれができないか。
それは、家庭での男女の分担が女性に偏りすぎているために仕事をセーブせざるをえなかったり、
出産などでどうしても物理的に仕事を離れる時があることについて、組織がネガティブに評価することがあったり、
はなから「女性は男性ほど働いてくれない」という先入観で評価していたりするから。
ですが、おそらく、「え、今どきもうそんなことなくない?」と感じる方もいるはずで、なぜかというと、日本全体がくまなく、ものすごいジェンダーギャップにまみれている、というわけではないのです。
業界によって、会社によって、地域によって、家庭によっては、
女性もさほどのジェンダーギャップを感じることなく活躍できている、男性もそれが当たり前と思っている、という組織は日本にもあります。「え、今どきジェンダーギャップなんてそんなになくない?」と感じた方は、もしかしたら、ジェンダーフリーなとても恵まれた環境にいるのかもしれません。
一方で、信じられないほどのジェンダーギャップが根深く残っている組織があるのもまた事実。
ジェンダーギャップ指数を発表している世界経済フォーラム(WEF)は、「現在のペースでは、完全なジェンダー公正を達成するまでにあと134年かかる。これは、5世代分に相当する」と指摘していて、あごがはずれるかと思いましたが、
あと134年たたないと、だれもジェンダーフリーに生きることができない、という意味ではありません。
世界全体がジェンダー公正になるには、という意味です。
つまり、134年待たなくても、なんなら今でも、ジェンダーフリーに生きることができる場所はあって、おそらく、今の子どもたちを見ていると(この先なにかを刷り込まれなければ)とてもジェンダーフリーな価値観なので、ますますジェンダーフリーに生きられる業界や会社や地域が選ばれていくのではないかと。
ちなみに、こんな最後まで読んで下さる男性が何人いるか分かりませんが(最後までお読みくださった方本当にありがとうございます、、!)、男性は、自分自身には関係ないけど社会のためにはまぁそうなった方がいいかな、と思ってはる方もいるかもしれませんが、
娘さんが将来、ジェンダーギャップに苦しんでほしくはないのではないかと。もしくは自身に娘さんがいなくても、将来女の子のお孫さんが生まれるかもしれないですし、お孫さんに大変な想いをしてほしくないですよね。
いやでも、そんなオレひとりが変わってもなにかが変わるわけじゃないし…と思われるかもしれませんが、そして、日本のジェンダーギャップが変わる日なんてくるのか、と半ばあきらめモードになる気持ちもあるかもしれませんが、
とらつば(「虎に翼」)を見ていると、100年でここまで変われる!逆に100年たっても変わってない部分もある…!と良くも悪くも驚くわけです(ちなみに次回は、元気と勇気を与えてくれているとらつばについてお話したいなと思ってます)。
というわけで、子どもたちが大人になった頃には、女性も男性ももっと生きやすい社会にしていきたいな、とは前から思っていましたが、うかうかしていると134年もかかってしまうようなので、ちょっと厚かましいくらいでいいのかなと思えてきました。
そのための一環として書いたのが「シン・働き方 ~女性活躍の処方箋~」なので、もしご興味ありましたらお読み頂けたら嬉しいです(いきなり宣伝みたいですみません)が、本1冊読むのはダルいわぁ…という方は、このニュースレターをご登録頂いてたまにちらっと読んで頂くだけでも同じようなことが伝わります。
かく言うわたしも、自分自身はさほどジェンダーギャップを感じることなく生きているのですが、なぜこんなに暑苦しく語っているかというと、日々の産婦人科診療の中で、ジェンダーギャップに苦しむ女性たちと向き合っているからです。
女性が社会で十分に活躍できていない、ということは、その分、社会における分担が男性に偏っているということで、家庭と社会それぞれにおいて不均衡が生じている状態。もちろん、全員が完全な公平であるべき、というわけではもちろんなくて、男性が家事や育児をメインで行う家庭があってもよいのですが、それはあくまで望んで、のことであって、社会全体としてのジェンダーギャップは解消していかねばです。子どもたちの世代のためにも。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ…」と安西先生も鼓舞して下さっていますし、あきらめずに少しずつでも前進していきましょう☺ジェンダーギャップが相変わらず低い、という話に、悲観を通り越して、「まぁ日本てそういう国だよね」みたいなあきらめの境地というか無関心になってしまうのが一番よくないので、日本だって変わっていけるよ、という話をして、元気に締めたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。もしこれを読んで、元気になった、もっと元気になりたい!という方でもしご登録がまだでしたら、よろしければニュースレターにご登録いただけるとわたしも元気になります。
ではまた次のニュースレターで元気にお会いしましょう!
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